第23章 口走る本音
「恋だとか、愛だとか、難しいことは何一つ分からないけど、私はずっと悟が好きだった。もちろん、これからも気持ちは変わらない」
キョトンとする僕の頬にキスを乗せ、千夏は風呂場に向かった。
熱が残る頬に触れ、今一度考える。
千夏の言葉に隠された真意を。
単純に告白してくれたのか、言葉の意味とは違う何かを伝えたかったのか。
あるいは、僕の言葉に別れの不安を感じたか。
または、僕の反応を試したのか。
考えて、考えた。
けれど、分からなかった。
ただ、自分が愛されていることを自覚するしかなかった。
お風呂から上がった千夏は、何かするわけでもなく先程の場所に座り直した。
けれど、ものの数秒で立ち上がり、ソファに移動した。
「私、もう寝るね」
そう端的に言ってから、元からあった毛布にくるまり、ソファに寝転がってしまった。
「寝るならベットで寝なよ」
「ベットは悟が使うでしょ?」
千夏がそう言った理由がわからないほど、僕は馬鹿ではない。
けれど、それは僕のセリフで、千夏のセリフではない。
「千夏…、まだ何か隠してるでしょ」
「隠してない」
「じゃあ何で泣きそうなの」
「泣いてない」
後輩の灰原が死んだ時、引き継いだ任務を終わらせ戻ると、千夏は寮から離れた公園にいた。
声をかけると労りの言葉をかけてくれて、灰原の死については触れてこなかった。
千夏に何とか吐き出してもらった気持ちの中には、灰原達の任務に無理やりついて行けば良かったという、罪悪感があった。
千夏はそういう奴なのだ。
自分と関係ある人物が、自分と関係ないところで死ぬ事が許せなくて、何とかして自分を責めないと気が済まない。
いい意味で優しい、悪い意味で面倒な性格。
そういう面倒なところが、僕は好きだった。