第23章 口走る本音
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家に帰ると、千夏は机に突っ伏して寝ていた。
ベットで寝ればいいのにと思ったが、周りの様子から寝落ちしたのだろうと予想する。
相変わらずの”可愛くない”寝顔を”可愛い”と思いながらも、その気持ちに純粋さはなかった。
濁りきった不純物が混ざっている。
そんな自分が大嫌いだ。
「千夏、起きて」
体を揺らすと、千夏はゆっくりと目を開けて、僕の名前を呟いた。
カラッカラの声で奏でられた自分の名前は、何とも物寂しい雰囲気を醸し出した。
「泣いてた?」
「すこ、し」
コップ一杯の水を差し出すと、千夏は喉を鳴らして一気に飲み干した。
少し腫れた瞼が主張している中、いい飲みっぷりだ。
「これ、後で届けて下さい」
「預かりました」
「お願いします」
「頼まれましたー」
丁重に預かったのは学長宛の手紙。
折れないように懐にいれ、頭を下げている千夏の髪を撫でた。
「犬みたい」
「吠えてやろうか?」
「えっ、見たい見たい」
「冗談に決まってんだろ」
懐かしい口調。
僕との距離を示す口調だった。
流石に無視することは出来ず、けれど僕側から話を切り出すことも気に食わない。
原因を作った側を気遣う余裕はなかった。
ならば、思っていることをオブラートに包まずぶつけるしかない。
「僕、今の千夏を丸っきり信用できてない」
分かっていたのか、千夏が特別反応することはなかった。
ごく普通に相槌を打っただけだった。
「これって、付き合って数日の話じゃないよね〜」
だから、深い考え無しに思ったことを言ってしまった。
これが吉と出たか凶と出たかは分からない。
僕には判断できなかった。