第22章 一握の優しさ
その後、僕は高専に戻り会議に出席。
千夏は家で学長宛の謝罪の手紙を書くことになった。
直接謝りたいと千夏は希望したが、今はやめた方がいいと思い、止めた。
今、高専は緊張感が高まっていて、警戒度はMax。
そんな中に千夏を放り込むことはできない。
会議終了後、僕は学長室に呼ばれた。
呼ばれた理由は千夏のこと。
「やはり、傑に会っていたか」
「今、あいつが学長宛の手紙書いてるから、詳しいことは省きますね。コンブちゃんに聞いてもいいけど…」
逃げようとしたコンブを捕まえ、摘まみ上げた。
「情報集めは楽しかったかい?」
「私から話すことはない!」
「…まあいいや」
千夏信者のコンブが口を割るとは思えないし、こういうことは千夏の口から直接聞きたい。
コンブを学長に投げて、質のいいソファーに腰かけた。
「傑とあいつの件は悟に任せる」
「そうしてくれると助かりますね」
正直なところ、僕ですら介入できる隙間があるかどうかは甚だ疑問。
『悟の大事な親友を殺そうとして、ごめんなさい』
土下座され、そんなことを言われては、責めるにも責められない。
千夏だって、傑のことを大切に思っているのだから。
けれど、千夏を許せるわけじゃない。
現に、彼女は色々な信頼を捨てて行動してしまった。
それがどんなに致し方ないことだとしても、裏切られた側は簡単には飲み込めない。
それに、僕自身が千夏に不信感を抱いていることが最大の難点。
愛を頼りに無条件に信じていいほど、僕は子供じゃない。
こっちも抱えているものがあるし、千夏が過ちを犯したらそれなりの対応を取らないといけない。
千夏もその覚悟はあるみたいだけど、どうもまだ何か隠している気がしてならない。
千夏の秘密主義ほど、確固たるものはないから。