第22章 一握の優しさ
「人の信頼を利用するな」
千夏はこんなことをするような女じゃなかった。
だから、僕や学長は千夏を信頼し、色々なことを大目に見てきた。
「…仕方、なかった」
「それでも、やっていい事と悪い事があるでしょ」
ここで泣いて許しを乞われたほうがマシだ。
けれど、千夏は泣きもせず、ただ『仕方ない』の一言で済まそうとしている。
「何が”仕方ない”なの?」
「…」
「黙ってちゃ分からない」
僕は相当怒っている。
千夏が情報を漏洩したことはもちろん、何をされるか分からない傑の元へ出向き、怪我をしたこと。
楽観的なのか慎重に考えた末なのか、正直どちらでもいい。
今の僕には結果が全て。
「千夏」
「…」
「話せよ」
千夏の体を掴むと、なんと、震えていた。
様子がおかしいと思い、とりあえずソファに移動して座らせた。
部屋の温度は適温だし、雨に濡れた訳でもない。
「どうした?」
背中を撫でても、様子が改善する兆しは見えず、千夏は徐々に反応を示さなくなった。
けれど、呼吸は荒くなり、震えは大きくなっていく。
「千夏?なぁ…千夏!」
顔を両手で挟み、無理矢理上げると、千夏の目はバッチリ開かれていて恐怖すら覚えた。
その直後、肩の荷がおりたのか、体から力が抜けたように、僕にもたれかかってきた。
「どうした?怖いんだけど」
「…話、聞いて欲しい」
「いいよ」
「この話に関しては怒らないで」
「分かった」
僕が怒る可能性がある話。
色々と想像つくけれど、ここまで切羽詰まって話すようなことではない。
「私、本気で傑を殺そうとしてた」