第22章 一握の優しさ
「悟。私の代わりに彼女に謝っといてくれ」
「…!」
「腹の傷、すまなかったって」
彼女…!?
「あれはおあいこだよ!夏油様、何も悪くないじゃん」
「それでも謝っておかないと。治癒には労力がいるから」
彼女、だと!?
「それでは皆さん。戦場で」
「おい、傑!何で…!」
「詳しいことは彼女に任せるよ。彼女は怒らせたくない人の1人なんでね」
傑は何一つヒントを残さず、高らかに笑って去っていった。
傑から良心が消えうせたわけではなさそうだ。
その点に関しては感謝しなくてはならない。
けれど、どうして傑が知っている。
千夏は傑と会っていたのか?
学長と目くばせをし、その場を離れる。
呪霊の片づけは僕がいなくても事足りるだろう。
気になることは沢山あるが、一番は傑が言っていた”腹の傷”。
傑につけられてものであることは、察せられる。
程度は?容体は?
早く出ろ
出てくれ。
「今電話しても無駄だよ」
耳元からコンブの声。
いつの間に肩に乗ったのだろうか。
「無駄?」
「そう、無駄」
「どうして」
「ほら、前」
前を向くと、薄暗い通路の壁に千夏が寄っかかっていた。
急いで駆け寄ると、千夏が先手を切った。
「まずはここを離れたい」
「分かった」
少し移動してから家にとんだ。
そして、千夏は荷物を下ろしてから、2言目を発した。
「ごめん」
怒鳴りたい気持ちを押さえて、千夏の腹を確認した。
そこには想像していたような傷跡は残っていなくて、まっさらな肌があった。
「…なんで、お腹のこと、知ってるの」
「傑に自分の代わりに腹の傷のこと謝ってって頼まれた」
千夏がそのような態度をとったのならば、先ほどの謝罪はなんだ。
何に対しての謝罪だったんだ。