第3章 共通認識
「どうした…」
「ほら、あーん」
目の前には五条の顔。
1歩前に出ればキスできる。
けれど、その間をスプーンが邪魔をしている。
生クリーム、いちご、カラフルなフレーバーがこれでもかと盛られたスプーン。
「…ん」
「美味い?」
いちごの甘酸っぱさと、生クリームのしつこくない甘みが合わさって、舌の上で蕩ける。
そこに、フレーバーの塊が加わることで、舌が飽きることを知らない。
「美味しい」
手で口を覆い、せめてもの照れ隠し。
こっちの想いを知った上で笑ってることは知っている
なんにせよ、今目の前にある五条の顔は”最強”だ。
「ひと口食べたいならそう言えばいいのに」
「…」
「聞いてる?」
「え、あ、何?」
今、今…。
五条は私が使ったスプーンを咥えてる。
「関節キス…」
「あ?」
関節キスが初めてという訳では無い。
水筒の飲み回しとか、お菓子の食べ掛けを貰ったりとか。
今まで何度かあったけど。
こういうロマンチックで、いかにも男女というようなシチュエーションは、未だかつてない。
「そんなことで固まってんの?ウケるー」
「そんなことで悪かったね!」
人の感動をケラケラと笑うなんて。
モテる君とは違って、私は純情な女の子なんです。
五条はカッコイイから、道を歩けば『え、あの人まじイケメンじゃない?』パラダイス。
今だって、チラホラそんな声が聞こえてくる。
中には『話しかける?』『えー、無理無理』と話している美女達もいる。
五条を盗られるのも時間の問題だ。
「早く戻ろう。遅いって怒られそう」
美女と話してドヤ顔になる五条なんか見たくない。
その上、写真係に回されるなんて。
過去に何度かそういうことがあったけれど、当然良い気持ちはしない。