第22章 一握の優しさ
「今から連絡しとこうか」
『大丈夫。もう帰るから』
何か違和感を感じる。
突き放すような言い方は今に始まったことではないが、それにしてもおかしい。
「何か隠してるっしょ」
『何も』
「嘘だ~」
『ほんとだって』
はい、黒ですね。
けれど、ここで問い詰めても時間の無駄になる。
「まあいいや。いつ帰ってくる?」
『明後日くらいかな』
「もう帰るんじゃないの?」
『岐阜と長野に用事あり♪』
千夏は仕事の一環として、神社、墓場など、呪い溢れるような場所を巡って、秘密裏に管理している。
方法は企業秘密だと言われたが、大体予想がついている。
岐阜と長野に寄るのも、その件絡みだろう。
『悟は?昨日、帰れなくなったって言ってたけど、なんかあったの?』
傑の話は正直したくない。
けれど、最悪千夏の手を借りる可能性もある。
「傑が動いた」
千夏に隠しておくメリットが少ない。
私情を挟んでいいのなら、メリットしかないが。
「多分、高専に来ると思う」
『いつ?』
「分からない」
千夏の強さのひとつは、どんな状況になっても動じないこと。
今すべきことを見誤らないところだ。
『そしたら、コンブを使って』
「あの呪骸?」
『会った?』
「学長の肩に乗ってた」
その情景を想像したのだろう。
電話越しに笑い声が聞こえた。
『あの子、そういうの得意だから』
「そういうのって?」
『情報探し』
そういわれても、あの呪骸が電子機器を使っている様子すら、想像できない。
それからは、コンブの名前の由来だとか、どうでもいいことばかりを話して、頃合いを見て電話を切った。
千夏が帰ってきてから、休息らしい休息をしていない。
その上、恋人らしいこともしていない。
そのさらに上、会話のほとんどは仕事の話。
(恨むぜ、傑)
お前はどこまで俺たちの仲を裂くつもりだ。
応援してるのか、どっちかはっきりしてくれ。