第22章 一握の優しさ
なるほど、理解した。
彼女は私を試していたのだ。
以前の私の面影を信じて。
「残念だよ、傑」
いつの間にか彼女は復活していた。
まだ血は流れているけれど、先程より余裕を感じる。
「本当に、残念だ」
彼女の頬を流れているのは、汗なのか、涙なのか。
判別しようがなかった。
「ちなみに、その傷は簡単には治らないよ。私の呪力付きだから」
そう言って、彼女は私の傷を治癒した。
「どういうつもりだ」
「気まぐれ。運が良かったね」
彼女が来て、多くの被害を経験したが、最終的に残ったものは天井の穴だけ。
「次会った時はちゃんと殺してあげる」
「虫ひとつ殺せないくせに、何を…」
「無殺生を掲げてたのは昔のこと。それを忘れずに」
この言葉は本物だろう。
彼女はピクリとも笑っていなかった。
「もう帰るけど、何か聞きたいことはある?」
彼女は腹にタオルを当てて、再度ゴミに手を合わせていた。
誰一人、彼女に突っかかる者はいなかった。
彼女が危険であることを、誰もが感じたからだ。
「東京のオススメのスイーツは?」
「…まさか、傑がそれを聞くなんて」
「スイーツ好きな女の子がいるものでね」
千夏はどこからか取りだした花を床に添えた。
彼女はマジシャンか何かだろうか。
「原宿のクレープ」
ふと、頭の中を何かが掠めた。
甘い匂いと甘ったるい作り声、そして自分の笑い声。
「昔、皆で行ったところだよ」
「覚えてないね」
彼女は何も言わず、廊下を進み消えていった。
残された私達は、それぞれ程度の違う疲労感を味わっていた。
「すまない。私の知り合いは狂暴なんだ」
「あれは絶対モテないタイプね」
「はは。当たってるよ」
彼女が置いて行った花を踏み潰した。
「いいかい、皆」
振り返ると、誰もが笑みを浮かべていた。
良くも悪くも、彼女の影響を受けたのだろう。
「まずは手始めに、呪術界の要、呪術高専を落とす」
彼女が現れたことはイレギュラーだ。
単に戦力が増えるだけでなく、周りの士気も上げてしまう。
表舞台に立つかどうかは分からないが、行動するなら早い方がいい。
八乙女千夏。
私の敵はやはり君だよ。