第22章 一握の優しさ
彼女は刀を1本取りだし、鞄を背中に担いだ。
菜々子に先程の無礼を謝って、彼女は数歩外に出た。
そして、ゴミに向かって手を合わせた。
「夏油様。あの人…」
「大丈夫だよ。ただの馬鹿だから」
きっと今の声は聞こえていただろう。
昔の彼女なら突っかかってきてもおかしくないが、全く反応しなかった。
「ねぇ、この人はどうして死なないといけなかったの?」
「金を集められなくなったから。簡潔だろ?」
「そーだね」
風が吹いた。
思わず窓を確認したほど、ハッキリとした風が髪を揺らした。
「忘れてたよ。傑は人殺しだったね」
「今更何をいっt…」
瞬間。
鞘に収められた刀が、私の首元を突いた。
彼女が刀を投げたのだ。
「お前、ここらで死んどけ」
人数差は十分にあるし、刀の1本はこちらにある。
不公平極まりないハンデがあるにも関わらず、その場で動けたのは7人中2人のみ。
彼女の呪力に圧倒されて固まってしまった。
「戦闘はしないんじゃなかったっけ」
「気が変わった」
彼女が飛ばした呪力は天上に穴を開けた。
「八乙女、千夏…!」
程度は違うものの、呪術界を追放された仲間として、少々の親近感を抱いていたのは、忘れることしよう。
彼女から立ち上る呪力は決して軽視できない。
「おっと、その名前は呼ぶなよ。私、一応逃げてる身だから」
「それだけの気配を出しといて?」
「あ、これはマズイね」
舐められているのか、先程の呪力量にスっと戻していた。
そのコントロールはどのように行っているのだろうか。
「こうなると人数的に勝てる気がしないんだよな」
刀を取るためにわざわざ敵の陣地に戻ってきた。
そこを総出で叩く。
しかし、スピードで負け、6人が後ろを振り返ると、彼女は私の隣で腕を組んでいた。
なるほど、余裕の在り処が分かった気がする。
「どうしようか」
悩む彼女を後ろから襲撃。
予め出しておいた呪霊の腕が、彼女の腹を貫いた。
「いっ…たいな」
彼女は気づいていたはずだ。
何故避けない。
何故、擦り傷のような反応をする。
致命傷だというのに。