第21章 紡いだ新たな線
「僕は五条悟だけど、好きでもないやつと一生暮らせない」
皆は五条家の五条悟を望んでる。
何の変哲もない1人の男である五条悟を望んでいるのは、私だけなんだよ。
「それに、僕の好きな人は昔から同じで、これからも変わらない」
私1人にしか需要のない貴方に、成り下がっていいんですか?
そして、そんな貴方を独り占めしてもいいんですか?
「千夏」
大きな手で、小さな手が包まれる。
温かい。
「好きだよ」
顔がゆっくりと近づいてきたから、目をつぶった。
柔らかい感触を一瞬感じてから、そっと目を開けた。
10年ぶりのキスだった。
悟は見たことのない”真剣な顔”をして、1度目を閉じた。
綺麗な瞳が見えなくなっても悟の顔は綺麗で、写生されたような整いを見せていた。
3秒ほど経つと、悟の目がゆっくりと開いて、私の視線を掴んで離さなかった。
「この先ずっと、僕の隣にいてください」
悟が敬語を使っているのが面白くて。
現実味のないこの空間が面白くて。
笑い泣きした。
ずっと夢見てたはずなのに、こんなに衝撃を受けるなんて。
右手で悟の腕を掴んで頭を垂れた。
すると、悟の左手が私の頬をすくい、髪をかきあげてくれた。
「まずは、恋人から始めましょうか」
「千夏がそう言うのなら」
手の甲にキスをされ、した本人が照れ笑いを浮かべていた。
その全てが愛おしくて、すかさず首に手を回し抱きついた。
「緊張した?」
「今、すっげー心臓鳴ってる」
どれどれ、と胸に耳を当てると、振動が顔を震わすくらい、心臓が跳ねていた。
「でも、これで千夏は僕のもの」
「…悟は私のもの」
お互い、好き同士であることはずっと前から分かっていたし、特定の関係性で誇張する必要は無いと思っていた。
けれど、これはこれで幸せなものだ。
いや、とっても幸せだ。
さっきまで自分の性欲との戦いに勤しんでいたけれど、ここまで幸せだと性欲が綺麗さっぱりなくなって、ただ純粋にくっついていたいと思えることを知った。
どこからともなく笑いが込み上げてきて、真っ暗な部屋の中、2人で抱き合って、笑いながら眠りについた。