第21章 紡いだ新たな線
「ここまで来て、何もないとか思ってないよね?」
「し、ないからね」
逃げるように風呂場に向かう。
そして、鍵を閉めた。
「ちょっと~。俺も入るんだけど」
「だーめ!」
「一緒に入るって言ったじゃん」
「そうだけど、許可した覚えはないでーす」
鏡を前に、髪に手櫛を通す。
そこで、着替えやメイク落としなどの道具を、駅前のコインロッカーに入れていたことを思い出した。
「…あのさー、今から私のために駅まで行ってくれるとかないよね?」
「駅?」
「荷物、持ってくるの忘れた、てへっ!」
”てへっ”で笑えるほどの、バカさではない。
どうして気づかなかったんだろう。
こんなバカげたことをしでかしたのは、数年ぶりである。
悟にもドア越しに、酷く罵倒された。
「いいよ。千夏、風呂入れてくれねーし」
「やったー!マジでありがと」
「で・も!」
い、嫌な予感が。
「ただでは頼まれま…せん!」
「スイーツ奢るよ」
「それだけじゃ、無理かなー」
なんだ。
スイーツで釣れると思ったのに。
と、なれば…。
いい案を思いついた。
「今日は無理だけど、明日、いいよ」
「どういうことー?」
白々しい。
「だから、いいよって言ってんの」
「だから、何が?」
「…気持ちいこと!」
女の子になんてことを言わせるんだ。
こういうのに興奮するのだろうか。
「うっわー。千夏ってば、ハレンチ!」
「興奮した?」
「…お前、本当に千夏?」
しゅんっと。
扉の鍵の効果を無視して、瞬間移動して扉を超えてきた。
「ず、ずるい!あっち行って!」
「さっきも思ったけど、なんか胸おっきくなってるし」
「さ、触るな!」
下着の上から胸を包まれた。
直接的とは言いにくい刺激に、すっきりとしない。
「僕以外の男と関係持ってたら、泣いちゃうんだけど」
「そん、なわけ…。その触り方、やめて」
悟以外の男と関係を持つなんて、ありえるわけないじゃないか。
この調子だと、流されてしまう。
絶対に流されてはいけない。