第20章 昔話のハッピーエンド
けれど、叔母が引き取ったのは三人だけではない。
もう一人、叔母には子供がいた。
その子の話をするときの叔母の顔は、今でも忘れられない。
あまりにも自然に、彼女は笑っていた。
『本当にかわいくて、かわいくて。みんなであの子を可愛がった。わがままな部分もあったけど、そこも可愛くてね~…。笑うとえくぼがあってね、それに、背中に青いあざがあって…』
叔母は私にその子を重ねていたのだと思う。
頭を撫でられながらも、私を撫でているのではないと感じた。
『…元気に生きててくれれば、それでいい』
叔母は雨が降りそうな夜空に目を向けた。
今まで何回も空を見ていたのは、その子に想いを寄せていたのか…!
『…大変。もうこんな時間。そろそろ人が来ちゃうわね』
時計を見ると、もうすぐで9時30分。
叔母のタイムスケジュールはきちんと決まっているのだ。
『この話は内緒。私、怒られちゃう』
『…言わないよ』
おどける叔母の姿は、写真で見た若い頃の叔母のままだった。
『最後に聞いてもいい?』
『なあに?』
『その子…、”夏”に拾ったその子の名前は何?』
記憶の中の子供たちに触発されて、人間性を取り戻した叔母は微笑んだ。
他の三人の名前から、何となく想像できるが、念のため聞いておきたい。
『千夏。千に、夏って書いて、千夏』
一回、自分でその子の名前を唱えた。
忘れてはいけない、と念じながら。
『ありがとう』
『いえいえ。…頑張ってね』
『うん。おやすみなさい』
『おやすみなさい』
叔母は落ち着きのある速度で、頭を下げた。
頭が上がるのを見届けてから、静かに部屋を出た。
「ち、なつ」
その子を探さなければ。
これから先、叔母が幸せに暮らすには、その子が必要だ。
その数年後。
親友たちとビーチに遊びに行った。
そこで偶然にもその子と同じ名前の女の子を発見。
「…みんな。ちょっとナンパ手伝って」
「うっそ。愛華、そういうの嫌いじゃん」
「お願い」
その子と一緒に来ていたイケメン君にナンパを仕掛け、その子に近づいた。
間違ってたらそれでもいい。
けれど、私は根拠なしに確信していた。
この子が、あの千夏だと…。