第20章 昔話のハッピーエンド
『愛ちゃん。お兄ちゃんを責めないでね。本当は優しい人なんだよ』
『無理。あんな人、大っ嫌い。死んじゃえばいいのに…!』
高校生が『死ね』という単語を使うのは、大して珍しくないし、大の大人でさえこの言葉を使う。
今時、誰もこんなことで起こらないと思っていた。
『愛ちゃん。今の言葉は取り消しなさい』
これが、叔母から受けた初めての説教だった。
何があってもそれは言ってはダメだ、と。
そんな醜い人間になってはいけないと、諭された。
『おばさんは優しすぎる』
『……私は優しくない』
『…おばさん?』
愛華がベットを周り、空を見上げる叔母の顔を覗き込むと、ロボットのように泣いていた。
普段口を動かさないせいで、年齢の割に皺が少ない顔に、涙が流れていたのだ。
『愛ちゃん』
『…何?』
『…私は、人殺しなんだよ』
叔母は笑った。
自嘲の笑みだった。
『未来ある子供を…。我が子を、殺してしまった』
子供を殺した。
我が子。
新しい情報に頭が一気に動き出す。
『少し、昔の話をしてもいいかな』
恐る恐る叔母のベットに腰かけ、叔母に体を寄せた。
話を聞くと、叔母は思っていたような殺人鬼ではなく、殺人の被害を受けた一人だった。
叔母はこの話をするのは何十年ぶりだと言い、自責の涙を流しながらもどこか嬉しそうに話していた。
最初に拾った子は、とても元気に毎日泣いていた。
季節に合う紅葉のように、真っ赤な顔をして。
次に拾った子は、とても大人しかった。
極寒と言われた季節を、耐え忍ぶかのように。
その次の子は、とても賢かった。
ほかの二人も本能でその子の異様さを感じ取り、気づけば三人のリーダーになっていた。
しかし、一瞬にしてこの子たちの命は奪われてしまった。
かけがえのない命が、一瞬で散ってしまった。