第20章 昔話のハッピーエンド
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「じゃあ、ここに来るのは…!」
「だいじょーぶ。連絡はしてあるから♪」
私が心配している横で、彼女こと、八乙女愛華は笑った。
その笑顔は不安を助長させる。
「無理してない?」
「ヘーキヘーキ!逆に、ちょっと楽しみ。不良少女の帰還にどんな顔をするんだろーって」
そう。
私たちははるばる彼女の実家、八乙女家に向かっていた。
彼女にとってつらい思い出がたくさんある場所であろうに、愛華は愛らしく笑っている。
道中で購入したホールケーキと18本のろうそくを持って。
「うわー、何も変わってないわー」
一つもためらわずに愛華がインターホーンを押すと、自動で大きな門が開いた。
腰が引けている私を連れて、意気揚々と進む愛華。
大きな庭を横断し、玄関に向かう。
「お待ちしておりました」
出迎えてくれたのは、背筋の伸びた女性。
愛華が生まれたころからこの家に仕えていた人らしい。
口はへの字に曲がり、某映画の継母を彷彿とさせる。
歓迎する様子は微塵もなく、業務の一環として、私たちは家の中に招かれた。
「…ふん。なんも変わってねーし」
先ほどの女性を前に、愛華がボソッと呟いた。
そう呟いた愛華の顔は、とても寂しそうだった。
声をかけようとしたが、それよりも先に愛華が話しかけてきた。
「準備はできてる?」
「う、うん」
「緊張しないの!」
背中をバシッと叩かれ、女性らしからぬ声が出た。
継母顔の人はちらりと後ろを振り返り、小さく舌打ちをしたように見えた。
私がこの家に滞在できるのは、もって1時間。
それ以上いたら、この家の人全員によからぬことを言ってしまうだろう。