第20章 昔話のハッピーエンド
「今から個人プログラム第2部ね。私の話を聞いてほしい」
「じゃあ、あっちに行こう」
腕引かれ、ふかふかのソファに並んで座った。
悟の右腕にピタッとくっついて、話を始める。
「本当に色々なことがあった。人の優しさ、傲慢さ、強さに触れた。今までで1番の苦痛を体験したと思う」
「…ごめん」
「やめて。悪いのは私なんだから」
ダメだ。
こんな話をしようと思ったのではない。
「その苦痛は私を強くした。生きる理由をくれた」
悟の顔を見上げて、笑いかける。
今は切ない表情をするところじゃない、笑うところだよ、悟。
「ここに来る時に、何から話そうかってずっと考えてた」
結局は全て話すことになると思うけれど、10年分の記録はそう少なくない。
きちんとまとめて話さないと、永久に話し続けてしまうだろう。
「でも、どれだけ考えても、最初に話そうと思う話は同じだった。やっぱりこれしかないよな、っていう話が一つだけあった」
人生最大の幸福と絶望を味わった話。
1時間後の未来も想像できないほど、常に未来が変わっていた。
「面白い顔」
悟の頬を引っ張って、上下に動かした。
やめて、と手を掴まれ顔を背けられてしまった。
「あのね、どれだけ僕が自分を責めたか知らないでしょ」
「知ってるよ」
「知ってたらそんなこと、普通言わない」
今だって、と聞かせる気のない文章を付け足し、私の嫌いな顔をする。
自分を責めている顔。
この顔だけは好きになれない。
大っ嫌い。
だから、早く話を進めた。
「その目で、見えてるんでしょ。私のこと」
昔の私と今の私。
決定的な違いがある。
可愛くなったとか、常識が身についた、とかではない。
悟の顔を見れば、私の変化を分かっていることは伝わる。
わざわざ言わなくてもいいかもしれないが、念のため言葉にしておく。
「術式が消えちゃった」
もう何年も前のことだ。
それでも、鮮明に思い出せる。
悟に伝えるために、何度もこの件を手紙を書いては捨ててきたから。
一番に悟に伝えなくてはならない。
ずっとそう思っていたから。