第20章 昔話のハッピーエンド
「うわ、こんなの飲ませたの?」
五条がバカにするように見せつけてきたボトルには、決して自分では買わないであろう度数が書かれていた。
「酔わせないと話してくれないと思ったから」
「しょ…こ。酷い」
硝子曰く、高校時代は我慢したのだから、大人なりの強硬手段をとっても責められる筋合いはない、とのこと。
高校時代の話を持ってこられると、自分に非がありまくったことを自覚している分、言い換えせない。
その上、話しながら私のペースを確認していたから、ぶっ倒れることはないという、医師らしい余計な見解を言われてしまっては、反論の余地もない。
「それで、話は聞けたの?」
「まあ。一通りは」
「私、そんなに喋ったっけ」
「これだけ時間が経って、そんなに喋ってないって言える?」
聞かれて困ることはないが、自分の言動を覚えていないなんて、酒に飲まれた愚かな大人の象徴だ。
こんな大人にはなりたくないと思っていたのに。
「じゃあ、もう連れ帰っていい?」
「いいよ」
私の意思は何処へ。
「おーい。立てる?手伝おうか」
「自分で立てる」
顔が熱い。
机に手をつきながらゆっくりと立ち上がった。
すると、五条が足の関節と背中に手をまわしてきて、あっという間に担がれてしまった。
「荷物…」
「もう運んだ」
「は?いつの間に」
確かに、私の荷物はどこにもない。
私の私物は、机の上にある携帯しか残っていなかった。
「あ、番号」
「いいよ。後で五条に聞く」
硝子から携帯を受け取り、腕を五条の首に絡めた。
「また来る」
「お好きに」
もう少し感動のある別れをイメージしていたが、硝子は既にデスクに向かってしまった。
「もういい?」
「うん」
いつも通り瞬きをすると、次に移った景色は硝子の仕事部屋ではなかった。
モデルルームのような清潔感のある生活空間だった。