第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
『でも、千夏がいないと、俺は頑張れない』
頑張れない。
『今だって、上を生かしておくか迷ってるくらい』
生かしておくか。
殺すか、否か。
『殺すんですか』
『…いや、まだ』
『いつか、殺すんですか』
『…俺は千夏みたいに平和主義じゃない』
ダメだ。
五条さんは八乙女さんのためなら、本当に成し遂げてしまう。
いくら道徳に反していたとしても。
『例え、殺しても、メンバーが入れ替わるだけですよ』
『分かってる』
『キリがない』
『そう。だから、俺は未来をつくる』
隣を見ると、八乙女さんが泣いていた。
ひそかに望んでいた、彼女の泣き顔を拝むことができた。
「…そうやって泣くんですね」
「見る、な」
顔を押されて、反対側を向かされた。
逆らえないほど強い力ではなかったが、大人しく従うことを選んだ。
「五条さんのところに行きますか?」
「ん…まだ行かない。こんな顔見られたくない」
とてもきれいな顔なのに。
言うべきか迷ったが、口説いていると感じられたら厄介なので、やめておいた。
「時間も時間ですし、そろそろ高専に行きましょうか。家入さんに会うんですよね」
「う、ん。近くのコンビニまででいい」
「分かりました」
話したいことの1割も話していないけれど、一番大事なことは伝えられた。
「そうだ。カスクート好きなんだっけ。1つあげる」
「あなたですか。買い占めたのは」
「そうそう、これ美味しいよねー」
断る理由もないので、ありがたく頂戴する。
お金はいいといわれたが、相手が相手なのできちんと返した。
八乙女さんとの貸し借りは危険だ。