第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
「さて、何から話をしようか」
彼女はサングラスを少し下げ、いたずらな瞳を覗かせた。
「本当はこの後予定があったんだけど、七海ちゃんに会えたから変更。今日はこのまま七海ちゃんと話して、硝子のところに行くよ」
「家入さんは…」
「ああ。硝子も七海ちゃんも先生も、そして五条も。今日、久しぶりに会ったよ。何年も会ってない」
彼女に聞きたいことは沢山ある。
けれど、それより先に話さなければならないことがある。
サングラスをひょいとあげた。
「さて、聞きたいことは…」「八乙女さん」
「お、何?」
喉が絞まる。
慎重に言葉を紡ぐ。
「すみませんでした」
横を向き、きちんと頭を下げる。
本当は外に出て頭を下げる方が良いのだろうけれど、それは後に回そう。
今はとにかく、後悔を取り除く奇跡のような機会を無駄にしたくない。
「なんの事?」
「今は聞かずに受け入れてください」
「分かった。いいよ、許す」
頭の上に彼女の手を感じる。
どこまでも唯我独尊な人だ。
「この手は?」
「なんか可愛かったから」
「は?」
顔を上げると、サングラスとマスクを外しながら笑う彼女がいた。
「あ、今笑ったでしょ!」
「笑ってません」
「笑ってた。ずぇーーーったい!」
「…」「ほら、また!」
この人は本当に変わらない。
私自身が彼女の不変さを求めていた。
だからあの時、彼女に助けを求めたんだ。
いつもと変わらない様子でいてくれると思ったから。
それにも関わらず、愚かな自分は彼女を突き放してしまった。
そのことをずっと後悔していて、今日謝罪の機会をもらったわけだが、彼女は話を長引かせることなく、すぐに話を終わらせた。
今ならわかる。
素直に認められる。
彼女は優しさの塊だ。