第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
『最近、七海ちゃんが〈あの人だけでよくない?〉みたいなことを口走ったことを思い出す』
『死と隣り合わせで働いているのに、その恩恵を受けるのは私達じゃない。その上、最後には五条が全部まとめて解決しちゃった。何のために灰原は死んだんだろう、って思っちゃうよね』
違う。
あの時はとっさに言ってしまっただけで…。
いや、本当は思っていた。
誰に言い訳しているんだ。
受け入れろ、クズな自分を。
『でも、強者には強者の苦しみがある。強いだけじゃダメなんだよ。七海ちゃんなら詳しく説明しなくても、私が何を言いたいか分かると思う』
『それと、悲しみと怒りは似てるけど、正反対の感情だよ。混同させるのは馬鹿がやること。馬鹿になるのは簡単。何もしなければいいんだもん。でも、抗うのは難しい…って私は思ってる』
『多分、混同させる馬鹿が君の先輩にいると思う。もしくは感情がどちらかに振り切っちゃって、手が付けれなくなる馬鹿が。え、分かってるよね。あの、世界一…』
のろけに四行も使うなんて、どうかしている。
彼女の惚気を聞くのには、飽き飽きだ。
けれど、この四行は紙の無駄ではなかった。
紙面を眺めて微かに笑った。
『多分、彼は私に対しては怒らない。自分を責めると思う。感情のすべてを、自分に対する𠮟責に帰着させる。その時に隣にいてあげて。彼を1人にしないで』
『長くなったけど、最後に一つ。自分に自信を持ちな!七海ちゃんは強いよ。もし私が特級の肩書を持ち続けられたら、一級に推薦してあげる!あれ、私が七海ちゃんを推薦するのはダメなんだっけ。忘れちった!あ、もうスペースがない。ソレジャア、アデュー!』