第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
「…七海ちゃんは頭がいいし、強い」
「嫌味ですか」
「違う。本当にそうなんだよ。七海ちゃんは頭が良くて、強い」
タオルを手放さないように気を付けた。
タオルがなければ、きっと手をあげそうになっていた。
「こんな状況になったのに…?」
「それは運が悪かっただけ」
「灰原は、運のせいで死んだって言いたいんですか!?」
「…そう」
「神に死を決められたと…!?」
「だって、七海ちゃんと灰原は弱くないもん」
夏油さんは後ろを通って、部屋を出ていった。
「いい加減にしてください。どうしてあなたは…!」
私が馬鹿だった。
どうしてこんな人を頼ってしまったのだろう。
だめだ。
早くここを出なければ。
「待って」
「ついてこないでください。もう、あなたの顔は見たくありません」
きっとこの状況をみれば、誰もが私の味方をしてくれると思う。
八乙女さんの態度はこの場にふさわしくない。
けれど、私は後悔した。
彼女を置いていったことを後悔し、謝りたいと思った。
彼女は八乙女千夏であり、強い女性だ。
そのことをもう一度考えると、どうしても謝りたくなるのだ。
けれど、その願いが叶うことはなかった。
彼女は姿を消し、数か月後に彼女の訃報が耳に入った。
残されたのは一通の手紙。
『七海ちゃーん。あの日以来かな?久しぶり!』
彼女の手紙は訃報以前から五条さんを通じて受け取っていたが、開封したのは彼女の死を知ってから。
何が書かれているのか分からず、怖かったのだ。
けれど、想像していたようなことは書かれていなくて、つらつらと、彼女らしい文章が続いていた。
ようやく、最後の便せんになってから、シリアスな雰囲気を感じ取れた。