第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
「今はとにかく休め、七海」
どうやら、ここにいたのは夏油さんだったらしい。
灰原が馬鹿みたいに尊敬していた先輩。
夏油さんは、今何を考えているんだろう。
「任務は悟が引き継いだ」
五条さん。
最強の呪術師といわれ、それ相応の力を持っていた。
彼が今、自分たちでは遂行できなかった任務を”1人”で行っている。
勝ち負けのあるゲームならば、自分たちが負けた相手に五条さんが一人で臨んで、きっと勝利する。
コンティニューをせずに、最初からスタートをして、敵に臨んで、勝利する。
負けたプレイヤーの必死な戦いは、忘れられる。
人を守るという、謎に存在している使命を全うするために戦い、命を落としたのに。
自分たちの戦いは、灰原の死は、影響を与えない。
元気でうるさくて、能天気で、時間を守らなくて…。
そんなことは誰も覚えていてくれない。
ただ、記録に故人として名前が刻まれるだけ。
その上、結果を残した者でさえ、私たちが命がけで守っている人々に認知されない。
ならば、自分たちのような下っ端が存在する意味は?
「もう、あの人1人で、良くないですか」
クソだ。
何のために彼は命を落としたんだ。
彼は、何のために死んだんだ。
彼の命を犠牲にしてまで、私が守ったものはなんだ。
何も、守ってないじゃないか。