第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
「…」
灰原の遺体を見て、固まってしまった八乙女さん。
その後ろ姿を見ているのが辛くて、目の上にタオルを乗せた。
彼女からもらったタオルで目を冷やしながら考えた。
考えた、というよりは、思い浮かべたという方が近い。
去年の夏。
灰原が珍しく真剣な顔をして、相談という枠組みで話をしてきた。
『八乙女さん、泣いてたんだよ。寮前のあのスペースで。深夜に一人で!』
灰原は詳しいことを知らなかったが、心当たりがあるらしい。
そのころ、八乙女さんは指名任務に駆り出され、学校で彼女の姿を見ることはなかった。
『やっぱり、大変なんだよ』
1つ上の先輩たちも、八乙女さんのことを心配していた。
話を聞くと、彼女が”八乙女千夏”でなければとっくにくたばっているだろう、とのこと。
けれど、一つ解せないことがある。
『八乙女さんが泣いてるところを想像できない』
『本当に泣いてたんだよ!話しかけてないから、遠くから見ただけだけど…』
彼女は泣かない。
そう思った方が、都合がいいほど、泣いていることを想像できない。
だから、灰原の謎の相談を聞いて、純粋に彼女の泣いている顔を見てみたいと思った。