第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
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(おし、決めた!)
焼きそばパンの包装紙を丸めて袋に突っ込んだ時、やっと方針を決めた。
今日、七海ちゃんに会うのはあきらめる。
この後、時間が決まっているイベントが待っている。
これから七海ちゃんを探して、会って話すのには、時間が足りない。
七海ちゃんとは積もる話があるから。
「さて、と」
袋の中にはカスクートが残っている。
食べるか、食べまいか。
(食べよう!)
大事なイベントに今から向かうのは早すぎる。
カスクートを食べて、ここらを少し散歩して。
そうして時間をつぶそう。
(なにこれ、うまっ!)
初めて食べたが、ここまでおいしいものなのか。
サンドイッチは食パン派だったけれど、バゲットの良さに気が付いた。
これは是非、みんなに食べてもらいたい。
買った時、まだ数個カスクートが置かれていたはずだ。
五条と硝子、先生と…、あいつにも買ってみようか。
「いらっしゃ…あれー?」
「カスクートがおいしくって。追加購入に来ちゃった」
「えー!嬉しいですー!」
先ほどと同じ店員さんが、二度目の来店でも笑顔で挨拶してくれた。
お盆にカスクートを5個乗せた。
「うわっ。カスクート、売り切れちゃいました」
「完売に協力!」
「ありがとうございます~」
先ほどと同じ袋にカスクートが詰められていく。
完売に協力したお礼と称して、私のお昼ごはんのゴミを引き取ってくれた。
なんて優しい人なんだろう。
「いいなー。私もパン屋で働きたーい」
「ふふ。楽しいですよ~」
ポイントカードを作ってもらい、先ほどよりワンサイズ大きい紙袋を受け取った。
「また来る」
「はーい、待って…あっ!お久しぶりです~」
店員さんの視線が私から外れ、来店されたお客さんに移った。
「ああ…」
待て。
この声は。
この雰囲気は。
「残念ながら、カスクートは売り切れちゃったんですよ~」
急いで振り返ると、思ったよりも近くに立っていて、思わず体が仰け反る。
パンを守るために体を捻ると、バランスが崩れてしまい、足が絡まる。
「そうn…!?」
倒れかけた体を、来店されたお客さんに支えてもらった。
あの、まじめな彼に―――――