第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
『だーかーら、七海ちゃんを出してよ。七海けん…なんちゃらって人!』
『お静かに…!ですから、個人的な要件は…』
『どうですか?この声、しってます?……あれ、七海さん?聞いてます?』
「…今からそっちに向かいます。彼女を捕まえておいてください」
電話を切って、急いで背広を羽織った。
あれは確かに彼女の声だった。
昔と何も変わっていない、頭の中にガンガンと響くあの声だった。
なぜ、彼女は生きているんだろう。
死んだとされていた間、どこで何をしていたんだろう。
このことを、五条さんや家入さんは知っているのだろうか。
「あ、七海さん…」
「彼女は…!?」
山田君には申し訳ないことをした。
いくら関わりがあったとは言え、会うのは久しぶりだ。
もう少し息を整え、落ち着いてから聞くべきだったと反省した。
「すみません。一度、落ち着きます」
大きく息を吸って、彼女の顔を思い浮かべた。
楽しい時はもちろん、悲しい時も、怒っている時も、笑っていた。
どんな時も彼女が笑っていたことを思い出したところで、息を吐いた。
「彼女はどこに?」
「そ、それが…、電話を切った直後に警備員に捕まって、追い出されちゃったんです。すぐに僕も外に出たんですけど、もういなくて」
彼女は既にここにはいない。
すこしホッとした自分がいた。
「分かりました。貴重な休憩時間を割いてしまい、すみません」
「いえ!七海さんにはお世話になりましたから」
「…体には気を付けて。では」
お世話になった…か。
私は何もしていないというのに。
ただ、人の心を捨てて、金のことばかりを考えていただけだ。
人に感謝されることなど何もしていない。
『悲しみと怒りは似てるけど、別の感情だよ。混同させるのは馬鹿がやること。馬鹿になるのは簡単。何もしなければいいんだもん。でも、抗うのは難しい』
そう。
私は馬鹿だったんだ。