第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
「コンブは私がどう過ごしてきたか知ってる」
「あー、だから!」
「静かに」
「昔の話を話してきたノカ…」
学長のサングラスを取って、きれいに拭く。
さっきから少し汚れが気になっていた。
「コンブは戦えない。ただ話すことができるだけ。私にはそれが限界だった」
息を吐きかけ、サングラスを拭く。
そして、先生の顔に装着させる。
「コンブ」
「なんだい。私のことが嫌いなご主人様」
「”全部終わったら”、私のところに戻っておいで」
「ふんだ」
「お願い」
「…ふん」
どうやら、本当に拗ねてしまったようだ。
コンブは話すこと以外は何もできないために、コミュニケーション能力が秀でているのだが、今はその豊かさが少し厄介。
「私の話を伝えてどうこうしようってわけじゃない。ただ、知ってもらいたいだけ。みんなに迷惑をかけた裏で、私が何をしていたか」
コンブに手を振って、入ってきた窓に向かった。
「待て」
あの馬鹿力で肩を引かれ。思わず体がのけぞる。
「お前…本当の本当に…」
振り返れば、口をだらしなく開けた先生が。
「うん。本当の本当に、せんせーの教え子だよ」
ニコッと笑うと、先生の体が近づいてきて、抱きしめられた。
まさか、五条よりも、硝子よりも先に、先生に抱きしめられるとは思ってなかった。
「…よかった」
耳元で言われた言葉は、涙腺を刺激した。
「また会えるなんて思ってなかった」
「…先生、私の彼氏かなんか?」
「やめろ。悟に殺される」
「はは。抱き着いてる時点でアウトだと思うけど」
余程五条が怖いのか、すぐに距離を取ってきた。
付き合いたてのカップルみたいな行動をとってくるのはやめてほしい。
「まあ、これは内緒にしておくよ」
「感謝する」
「それくらいしないと、割に合わないもんね」
私が窓に足を通して、やっと部屋のありさまに気が付いたみたい。
「おまっ…!!」
「窓の修理、よろしく♡」
「待て…!」
「アデュー」
体を鍛えたおかげで、人間離れした速さで動くことができるようになった。
忍者のように走りながら、思い出し笑い。
次に会いに行く予定の人に、さっきの学長の顔を面白おかしく話してやろう。