第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
「…!?」
学長は声だけでは気づいていなかったらしく、私の顔を見て驚いていた。
そして、幻覚だと思ったのか、周りを異様に警戒していたが、変わった気配を感じないことは、学長ならば分かっているはずだ。
「本物だって。がくちょーさん」
「そんなはずはない」
「声は押さえてもらえる?ばれたら面倒」
学長に近づき、肩に手を置いた。
「時間がない。早く状況を呑み込んで」
1.2.3。
三秒間の間に答えてくれなかったので、勝手に話を進めることにした。
「まずは、久しぶり。次に、少し聞きたいことがある」
一方的に話をはじめ、腰につけているポーチを開けた。
中から飛び出てきたのは、ウサギ型の人形。
「うー。暑苦しかったー!」
「静かにしていられるなら、外に出てていいんだけど」
「静かにするって言っても、出してくれなかったじゃん」
「信用がないんだよ。まずは行動で示せっていったろ?」
私の体を上り、学長に飛び移ったこの人形は…。
「呪骸?」
そう。
学長が言ってくれた通りの、呪骸。
「名はコンブ!よろしくっ!」
手のひらサイズの可愛い奴。
五年前から共に行動している友達だ。
「なぜ…」
「それはまた今度話す。酒を交えて、私の10年間の思い出話に付き合ってくれるならね」
コンブが生まれた理由は、今は重要ではない。
話せば長くなってしまうから、避けるのが妥当だ。
「学長に聞きたい…というか、頼みたいことがある」
「言ってみろ」
ようやく私の存在に慣れたのか、学長らしく堂々とした振る舞いになってきた。
「コンブを預かって」
「は!?」
コンブはたいていのことには従順な姿勢を見せてくれるが、静かにしろという命だけはどうしても守れないらしい。
「そんなの聞いてない!」
「静かにして」
「…聞いてないよー」
そりゃそうだ。
言ってないのだから。