第19章 10年の後悔と1時間の奇跡
やはり、硝子とは話せなかった。
親友に拒否されるのは辛い。
自分が悪いと分かっていても、辛いものは辛い。
次は先生に会いに行く。
今は学長と呼んだ方がいいのだろうか。
学長には謝ることがたくさんある。
それに、話したいこともある。
学長室はとっても広い。
あんな形だけの大人には相応しくない。
「ばぁ…って、いねーし」
窓ガラスを静かに割って入ったものの、学長室はもぬけの殻。
面白くない。
けれど、歓迎してくれた子達もいる。
学長の呪骸たちだ。
この子たちが動いたということは、学長にも誰かが侵入したことは伝わっているだろうし。
ここで、呪骸を大人しさせても無駄。
それに、一人の人間として学長のことは舐めているけれど、呪術師の学長のことは舐めるなんて身の程知らずなことはしてない。
気配を消したまま、この子たちの相手ができるとは思っていない。
「ごめん、いったん引くわ」
昔の私だったら、即バトルしていただろう。
本当に大人になったものだ。
割れた窓に足を突っ込み、帰ろうとした。
そして、学長が部屋に戻ってくるのは、ほぼ同時だった。
ドアの開閉音だけでは誰が入ってきたのかは分からないので、急いで体を外に出し、死角に入る。
「な…」
思わず漏れたと思われる声で、学長本人であることを確認。
気配から学長以外の人はいないと判断。
「…!」
先生の背後に回り込み、首に手を当てた。
誰でも首を触られれば、逃げようとする。
だから、逃げたり、声を出される前に先制攻撃。
「おひさ」
念のため、口をふさいでおくと、学長の手が私の手に伸びて、手をずらされた。
「誰だ」
周りを呪骸で囲まれた。
逃げるチャンスは既に捨ててしまったから、学長が気づいてくれないと私は死んでしまう。
「やっぱりボケが始まってたんだ。普通に忘れてた方だったら、傷つくけど…ぉ…!?」
捕まれていた手を馬鹿力で引かれ、体が宙を舞う。
腕が変な方向に曲がりかけたが、近くにあった椅子を蹴ってバランスを保ちながら、投げられるようにコントロールした。