第18章 カゲロウ
……
「友達じゃないの?」
「え、その…まだそんなに話してないし…」
「それはあんたの愛想が悪いからっしょ」
目線を斜め下に固定して、手を動かしまくる千夏。
「それは、き、緊張して、何話せばいいか…分かんなくって」
「普通に話せばいいんだよ。五条と話すみたいに」
五条の名前を出すと、慌ただしかった手の動きが、瞬時に止まった。
「それは、馴れ馴れしくないっすか?」
「別に、いいんじゃない?」
肩下の髪の毛を二つに分け、引っ張って遊ばせる千夏。
これはどんな気持ちの表れなのだろうか。
「てか、友達になれなれしいもクソもあるか」
「でも、私たちは友達じゃ…」
「友達だよ」
流石、友達が五条しかいない女の子だ。
めんどくさい基準を持ち合わせている。
「自己紹介したっしょ。それだけじゃ、友達になれない?」
「自己紹介で…」
「私も夏油もとっくに千夏のことは友達だと思ってんの。勝手に一歩引いて、とっつきにくくしてるのは、そっち」
千夏は物凄く慎重で、不器用なだけなんだ。
そして、ひねくれた基準を経験から手に入れてしまっただけ。
「ほら、呼んでみ。しょーこ」
「し、しょー…こ」
「もっかい」
「しょーこ」
ただの名前なのに、棒読みすぎて、思わず吹き出してしまった。
にやにやして、けれど、笑いを堪えなくてはならなくて。
しかも、名前を呼ぶ練習する千夏の隣にいなくてはならないという、笑いの試練。
この試練は高専に着くまで続きそうだ。
「そうだ。夏油に電話してみたら?」
「今?」
「友達なんだから、いつでもいいっしょ」
「そ、そうだよな。友達、だから…」
高校生にもなって、こんなに笑うことがあるとは。
数日前の絶望感など、すでに忘れていた。