第18章 カゲロウ
「おい、子供」
「ひっ!」
なんちゅー呼び方だ。
ビビッて私の後ろに隠れてしまったぞ。
「何でここにいたんだ」
「…弟が、忘れ物して、それで…」
そういえば、千夏をからかうのが楽しくて、この子に詳しいことを聞くのを忘れてた。
「呪霊が見えてるくらいだから、ここに入るの怖かったろ」
「…でも、おもちゃがないと、ヒカル、泣いちゃうから」
帳が解けて、補助監督が姿を現した。
すぐに、女の子の保護を報告した。
報告が終わると、女の子の前に千夏が座り込んで、二人は何か話していた。
「大事だからもっかい言う。おもちゃを見つけたら、ヒカル君は喜ぶかもしれないけど、お前が死んだら、ヒカル君は悲しむよ。おもちゃがないどころの騒ぎじゃないくらいに」
千夏が女の子の涙をぬぐう光景が、意外過ぎて思わず見入ってしまった。
「お願いだから、もうこんな無茶しないで。怖いと思ったら、逃げて。命は何よりも大事なんだから」
「は…い」
これは本当に千夏なのだろうか。
こんなに優しい顔をする人だったのか。
こんなに柔らかい話し方ができたのか。
「お姉ちゃんたち、ありがとう!」
やってきた救急車に乗った女の子に手を振り、私たちは病院に行く必要はないので、そのまま高専に戻ることに。
「本当に大丈夫なのか…?」
「あぁ、ケガ?平気平気」
「そっか」
危険な目にあったのはあの時だけで、他の危険はすべて千夏が受け持ってくれたのだから、心配するなら私のほうだと思うけれど。
嬉しそうな顔をする千夏をみたら、もう何でもいいかと思ってしまった。
「さっき、熱弁してたね」
「や、やめろ」
顔を隠したと思ったら、距離を取られた。
「い、家入さんって、意地悪だよな」
「さっきも思ったけど、硝子でいいって」
「でも、それじゃあ…なんか」
行きとは違い、普通に後部座席に乗った千夏。
その後ろに続いて私も車に乗り、ドアを閉めた。
「と、友達、みたいじゃん」