第18章 カゲロウ
でも、千夏が車の助手席に座ったことによって、車の中で話すことはできなかった。
後ろから話しかければよかったのだけれど、明らかな拒否反応を示されて話しかけるほどの根気は持ち合わせていない。
「それでは、ご武運を!」
帳の外に補助監督が消えて、千夏と二人っきり。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
集中しているのか、単に愛想が悪いだけなのか。
言えることは、さっき以上に愛想がないということだけ。
「あの、家入さん」
「…んー?」
名字で呼ばれることが少ないため、反応に少し遅れた。
「耳か、脳を呪力で守ってて」
「耳?」
「そ、それだけ…」
そういえば、千夏は呪言を使うんだっけ。
言われた通り、頭の内側を守る準備をした。
しかし、一向に千夏は呪言を使わない。
呪具のみを使って戦っていた。
しかも、何ともたどたどしい動きで、逐一無事を確認してしまう。
「大丈夫?」
「う、ん…」
体力的にどう見たって厳しそうだし、なんだか様子もおかしい。
よろめく体を支えてあげようと手を伸ばしたその時。
「…子供?」
小学生くらいの女の子が階段上から姿を現した。
女の子は私たちを見るや否や、駆け寄ってきて泣きわめいた。
「お姉ちゃんたち、助けて…!」
「んー。何があったの?」
幸い近くに呪霊はいなそうだったので、千夏の体を気遣って休憩という名の事情聴取をしてみることに。
「…あれ、千夏?」
千夏が踊り場の角に移動して、これでもかというくらいに壁に張り付いていた。
「無理。子供、嫌いなんだよ…」
「へぇー?」
女の子と手をつないで、千夏に近づいた。
「来るなって!」
「何でよ、かわいーじゃん」
「苦手なんだよ!」
千夏の反応が面白くて、何より千夏が初めて会話らしい会話をしてくれて、嬉しかった。
少し、油断してしまったんだ。