第18章 カゲロウ
「硝子。ちょいちょい」
五条に袖を引っ張られて、服が伸びた。
一時的な伸びだとしても、虫の居所が悪い時には、こんなことも鼻につく。
「千夏の様子がおかしくなったら、俺に電話して」
「だから、お前は親か」
私がそう言うのと同時に、前を歩く『夏ペア』から千夏の怒鳴り声が聞こえてきた。
夏油は何度突き放されても千夏に話しかけていたため、それが爆発した模様。
ちなみに、『夏ペア』というのは、先ほど夏油が親しみを得るために、作成したものだった。
「もし、千夏が危険な状態になっても、助けなくていいから」
「なにそれ」
初回だからと言って、油断をしていいわけでない。
訓練だといっても、死はいつも隣にある。
「助けようとしたら、巻き添え食らうよ」
「巻き添えって…」
「死神が硝子を狙ってくるってこと。ヒー、あれは怖かったなぁ」
一方的に話を終わらせ、サイドステップで夏ペアの肩を叩きに行ってしまった五条。
気持ちの入っていない『怖かったなぁ』に、反応した方が良かっただろうか。
五条は私がスルーしたことに関して、何とも思っていない様子だったから、別にいいか。
そんなことよりも、千夏を助けなくていいなんてどういう意味だろうか。
そういう助け合いも含めた連携を学ぶものでは?
不満ならたくさん出てくるが、今から前の三人の輪に加わり、詳しく聞くような気力はない。
移動中の車の中で千夏に直接問いただすことにしようか。