第18章 カゲロウ
「はーなーせー!!」
「暴れなーい、暴れなーい」
ここ、運動場にそんな声が響いたとき。
私たちは稽古を受けていた。
数秒後、荷物のように千夏を抱えた五条が呑気に歩いてきた。
「病み上がりなのに!」
「嘘は良くないよー」
「嘘じゃない!」
「はいはい」
運び方の割には、丁寧に千夏を下ろすな、と二人を眺めながら水分補給。
マスクを外した千夏は私の思った通り、まあまあ顔が整っていた。
「やあ、二人とも。順調?」
「まあね。悟はサボり?」
「単なるサボりじゃない。先生の許可があるサボり!」
それはサボりのうちに入るのだろうか。
二人のバカらしい会話を流し聞いて、頬を膨らませた千夏の横に移動した。
「この前、風邪ひいてたの?」
「そう。ほぼ治ってたけど」
突き放すような言い方をされ、思わずムッとした。
「おいおい。その言い方はないだろー」
五条が千夏の頬を鷲掴みにした。
二人の仲の良さが伺える。
「ふぇつひひひはん(別にいいじゃん)」
「もっと優しく。そんなんじゃ嫌われるよ」
既に嫌いになりかけていた心が、五条の味方をする。
「んんんー…」
捕まれていたところを擦りながら、にらみを利かせる千夏。
そのにらみにダメージを受けなかった五条は、私と夏油に向き直った。
「こいつ、友達いなかったから、お前らとの関わり方しらねーの」
「や、やめてよ!」
五条の口をふさごうと試みるが、身長差ゆえに簡単に避けられてしまい、あたふたする千夏。
「すっげー常識ないし、口悪いけど、仲良くしてやって」
「あーーもーーー!」
暴れる千夏を押さえる五条。
そして、再び千夏は五条に『大人しくしろ』と注意を受けていた。