第18章 カゲロウ
その日の午後、千夏が初めて教室に来た。
「八乙女千夏。好きなものは、飴とサザエさん。よろしく」
千夏はそれだけ言って教室を出ていこうとしたので、先生が肩を掴んだ。
セクハラだと叫ぶ千夏と、反論する先生。
散々先生を貶した後、不貞腐れ顔で私の隣の席に座った。
身長は平均並み。
声はハキハキとしていて、声量は少しうるさいくらい。
マスクをしていたため口元は見えなかったが、目元から察するに、きっと美人。
そして、落ち着きのあるピンク色をした髪の毛。
腰にはジャラジャラといろいろなものがついている。
私が求めていたのは、こういう女の子ではない。
女の子の八割くらいはまともな女の子ではないか。
どうして残りの二割を引き当ててしまったんだ。
誰にもばれないように、ため息をつき横を向いた。
「家入硝子。硝子って呼んで」
千夏の目が細くなり、明らかな敵意を感じた。
「…よろしく」
差し出された手を握り、軽く微笑む。
夏油も私を挟んで自己紹介をすると、同じく細い目で睨まれていた。