第18章 カゲロウ
男の子に跨るなんて、はしたないと思われるかもしれない。
しかし、逃げる乙骨君を大人しくするには、この体勢が1番だった。
「やっほ」
こんな可愛い大人の女性に跨られて、さぞかし嬉しいだろう。
しかし、乙骨君はこの状況に似合わない顔をしていた。
「だ、誰だか知らないけど、今すぐどいてください…そうしないと…!」
背筋がゾクゾクする。
地面から何か出てきた。
この子が例の謎に満ちた女の子だろうか。
憂太に触るな、だって?
なるほど。
大体状況が分かった…ような気がする。
「憂太から、はな…れろ…!」
威圧してくる割に手は出さない。
いつ首が飛んでもおかしくないほどの気を感じるのに。
「ふーん…、賢い怨霊じゃないか」
私が何を抱えているか分かっているよう。
我武者羅に愛を振り回しているわけではなさそうだ。
「名前は?」
メールに名前が書いてあったような気がするが、残念ながら覚えていない。
レディに失礼な態度をとってしまったことを、心の中で詫びた。
そして、どこまでこの子が我慢できるかを調べるために、乙骨君の頬へ手を伸ばす。
「あ、五条先生…!」
ガタンと、体が止まる。
優しくも体が強ばるような、そんな懐かしい気配を感じた。
「ちょ、笑ってないで…!」
じわっと涙腺が緩む。
目に写っているのは乙骨君の顔だけれど、自分の目で見ているような気がしない。
まるで映画を見ているように感じて、意識は全く別のところにあった。
考えているのは、後ろにいるであろう彼のことばかり。