第16章 始まりと終わり
「あ…えっとね」
一瞬、千夏の周りに見えていた呪力が増えた。
千春もそろそろ限界か?
「反対だって。そんなリスクを冒してまで、五条くんのわがままには付き合わないって。どゆこと?」
やっぱり駄目だったか。
どうしようか。
引き下がるべきか?
「これしか方法がないって言ったら?」
「嘘つけ。まだあるだろ。これ、私が言ってるわけじゃないからね」
面白いな。
怨霊が怒っているのか。
「じゃあ現実を教えてやるよ」
千夏がこっちに来たらどうなるか。
俺が小さい頃から見てきた現実をそのまま伝えた。
「されるがままこんな生活を送るなら、最初に反抗して、少しでも可能性を広げておくのがいいんじゃねーか?」
俺は多少の危険が千夏に降りかかってもいい。
最終的に千夏が普通に暮らせるのなら、最小限の犠牲を払ってもらう。
でも、千春は違う。
ノーリスク、ハイリターンを望んでいる。
リスクを被るのなら、千夏ではなく千春単体としてでないと、許さないという考えだ。
「責任は俺がとる」
千夏は『私なら大丈夫だよ』と俺と千春に訴えていたが、その言葉に信ぴょう性が一ミリもないことを、俺たちは知っている。
千夏に生き物を殺すことなどできやしない。
呪霊すらも友達と認識するのだから。
『命かけろよ』
突如として現れた怨霊。
警報音が鳴った。
『千夏を裏切ったら…』
「そんなことするかよ」
結界が壊れる。
こんな現場を見るのは初めてだった。
理論上は壊せることが分かっていても、壊せるような人は一般にいないから。
『私は残って後始末をする。先に行ってろ』
「え、千春…!」「りょーかい」
千夏を抱きかかえ、穴の開いた天井へ向かって、千春に押し上げてもらった。
ここからは時間勝負。
どこまで遠くに逃げられるか。
久しぶりに全力で走ることにしよう。