第16章 始まりと終わり
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
微笑みを浮かべて、斜め下をみた千夏。
こっちを一度も見ない。
「こっち見て」
触れられたら、無理にでもこっちを向かせることができるのに。
「お願い」
自分の中で一番優しい声を出した。
横を向いていた顔が、ゆっくりとこちらを向く。
「何で泣いてんの」
泣き虫なのは変わっていないようだ。
何の説明もなしにこんなことになって、恐怖を感じない方がおかしい。
「ごめっ…!私、ダメだった…!隠しきれなかった…!」
やっぱり、今回のことは故意的に起きたものではなさそうだった。
本来ならばこの言葉すら疑うべきなのだろうけれど、相手は千夏だ。
それに、この涙を前に疑うなんて、人間ではない。
「千夏は」
俺だって泣きたいほど悲しい。
こんなことになってしまって、悲しくて仕方ない。
でも、俺の気持ちをそのまま言ってしまったら、千夏はもっと自責の念に駆られる。
だから、俺は笑って言った。
「よく頑張ったよ」
千夏は余計に泣いてしまったけれど、俺には慰めることはできない。
俺のせいでこうなっているのに、俺が慰めるのはお門違いだ。
「もっとゆっくり話したいけど、時間がない」
「…分かった」
千夏はバカだけれど、状況の飲み込みは早い。
涙は止まっていないものの、覚悟のできた顔をしていた。
「私、死ぬんでしょ」
千春という名の怨霊が周りにばれたら、千夏は死ぬ。
だから、ばれないように大人しく過ごせ。
これが数年前に千夏に命令したことだった。
命令の意味を馬鹿正直に受け取り、ここまで守ってきてくれた千夏の口から、死という単語が出てきたことには、さほど驚かなかった。
「死なせない」
「覚悟はできてるよ?」
「そんな覚悟は捨てろ」
ここであっさり千夏が殺されてしまったら、今までの千夏の頑張りはすべて無駄に。
そんなことあってたまるか。