第16章 始まりと終わり
「暗証番号は?」
「誕生日」
0.8.1.5
「よく女子のスーツケースの中身を、そうやっていじれるね」
「千夏のだし。見られて困るもんないっしょ」
「…千夏、かわいそ」
手紙はカバンの底にあった。
ジップロックにまとめられていて、千夏が呪いの手紙と言っているものと、普通の便せんが分かりやすく区別されている。
「今読む?」
「もちろん」
硝子宛のものを取り出し、渡した。
他には、先生、歌姫、七海……1年坊主って誰だ?
傑宛のもあった。
そして、俺宛の手紙もあった。
「なあ、硝…」
「今こっち見たら殺す」
「…はいはい」
心身ともに疲弊しているのは、俺だけではない。
硝子もすでに限界だった。
一瞬だけ見えた彼女の涙が、それを物語っていた。
この手紙を読むべきか、読まないべきか。
そんなことを考えているくせに、体が勝手に封を開けていた。
今読むか、後で読むか。
そんなことを考えてるくせに、折りたたまれていた手紙を開いていた。
『これを読んでるってことは、私、やっちゃったみたいだね』
『多分、五条には電話すると思うから、みんなみたいにズラズラとしたものは、ここには書かないでおく。いいよね、別に』
『多分、私たちは結ばれない運命だったんだよ』
『なーんて、いうと思った?運命なんて腐ったものに、振り回されてたまるか!』
『いつか絶対に会いに行くから。可愛くなった私をお楽しみに♡』
なんだこいつは。
電話と言っていることが真逆じゃないか。
『じゃあね。愛しい愛しい五条君!』
千夏の顔が浮かぶ。
むかつくほど白い歯を見せてくる、あの顔。
電話の話と、手紙の話のどちらを信用するかなんて決まっていた。
俺はどっちも信用しない。
(俺もお前に負けないくらいわがままなんだよ…)
『ごじょーくーん…!』
茂みの中から声が聞こえる。
隠れられていると思っている千夏の声が。
あれはよく晴れた夏の日だった。
紛れもなく千夏の日だった。