第16章 始まりと終わり
「そうそう。五条に伝えることがあったんだ」
硝子は煙草をつぶして、新しい煙草に火をつけた。
「千夏の部屋を空けるって。多分もう荷物片づけられてんじゃない?」
傑の部屋は昨日空けられた。
元々あいつの部屋の荷物は少なかったから、30分くらいでまっさらな部屋になった。
あの部屋は傑の部屋であると同時に、主に千夏のゲームや漫画置き場となっていた。
夜遅くまで全力でゲームをしたこともあった。
思い出の詰まった部屋だったのに。
俺らの青春はたったの30分で片付けられてしまった。
「千夏の部屋にあるもの全部捨てられるよ。いいの?」
「別に…」
硝子は何かしらの思い出の品を取って置いたら、という意味で言ったのだと思う。
そんなもの必要ないし、千夏の顔を思い出すなんて辛いだけだと思っていた。
「スーツケース」
「スーツケース?」
考えるより先に体が動いていた。
あれを捨てられるのは困る。
中には千夏が書いた手紙が入っていて、ほかの人たちにとっては最後のつながりとなるものなのだから。
「ちょ、五条!」
急げ。
俺にとってはあってもなくても同じようなものだけれど、千夏はみんなに手紙を渡したいから、わざわざ俺に話したんだ。
千夏の部屋に行くと、すでに荷物のほとんどが運び出されていた。
残されていた荷物の中にスーツケースはない。
窓の外にはトラックがみえて、見覚えのある棚が荷台に乗っていた。
『お菓子沢山あるよ。頭動かすのに甘いものは大事だからね』
元々甘いものが特別好きではなかった。
千夏にお勧めされて食べていたら、いつの間にか自分でも進んで買うようになっていた。
そんなお菓子が入っていたあの棚。
懐かしい思い半分、すぐに棚の上に移動した。
「おわっ…!?」
驚く運転手を無視して、周りを見渡した。
あった。
これだ。
「これ、貰いまーす」
「ちょ、何を…!」
スーツケースの取っ手を握り、硝子のいる場所まで飛ぶ。
早く手紙を読みたかった。
千夏は一体、最後に何を伝えるんだろう。