第15章 終わりと始まり
この電話は最後の一言のために行われた。
私が直接名前を呼び、直接想いを伝えるために、直接感謝を述べるためにあった。
最初から分かっていた。
私と彼の間には避けられない大きな壁があって、それを壊すには何かを捨てなければならなかった。
恋と普通の生活を両方手に入れたいなんて、絵空事だったんだ。
私達が現実を受け入れた瞬間に、終わる恋だった。
『どうしようもなく悟と一緒に居たいんだよ』
『いればいい』
『隣に立ちたいの』
『立てばいい』
私にとって最初の告白は、ここから始まった。
上層部に向かって宣戦布告をする時、勇んだ反面で恐怖を感じていた。
こうやって私の想いと目標を口にすることで、自分を奮い立たせていた。
『泣き虫で、ごめん』
『強がらなくていいよ』
私が呪術師として働くことになった時。
涙が止まらなかった。
少しでも失敗したら、死が待っているなんて、私の心は耐えられなかった。
『昨日、五条の夢見たよ』
『どんな?』
『五条が滑り台してた』
『何それ。どんな夢だよ、はは!』
だから、五条がくれた日常が私を助けてくれた。
その日常が、私の全てだった。
『この、アホンダラ!』
『寝起きブス!』
『ほんと、最低!』
喧嘩する時もあったけど、それも楽しかった。
1人じゃ喧嘩はできないから。
「さとる、さとる…!」
会いたいし、話したいし、抱きしめたい。
本当にもう会えないのだろうか。
これが最後の会話になってしまうのか。
《千夏》
懐かしい声だった。
過去に置いてきた声だった。
《だーいじょうぶ。あの男とはまた会えるって。前だって再会したでしょ?》
「…」
《だから、それまで頑張ろ?沢山、沢山、人を救お?しーさん言ってたじゃん。いいことしてれば、いいこと起こるって》
正直、そんな言葉でどうこうなるような傷ではない。
傑のこととか、自分の力のこととか、五条のこととかが、積み重なってできた傷は、思っているより深かった。
でも、とりあえず感謝はしておこう。
「ありがとう。”千秋”」
《ん!》