第15章 終わりと始まり
『何でお前は勝手に遠慮して、わざわざ傷つけられに行くんだよ』
「そんなことないよ」
『そう言うなら、俺の力を全部使えよ』
「嫌」
『なんで…。そんなに悲劇のヒロインになりたいのかよ!?』
伝えることは伝えた。
そろそろ最後の締めくくりをしよう。
硬貨を一枚入れた。
きっとこれが最後だ。
「五条」
『…おい。切んなよ』
「本当にありがとう」
上を見上げた。
瞼裏が熱くなる。
「小さいころ、楽しかったね」
『やめろよ、そんな…』
「あの時、私のことを受け入れてくれてありがとう」
「中学で千春が暴走したとき、本当に死ぬことを覚悟した」
『最後みたいに言うな!!』
「…迎えに来てくれて、ありがとう」
五条が電話越しにため息をついた。
『…お前らは、どうして一人で抱えるんだよ』
「五条が大切だからだよ」
『俺に、手伝わせてくれよ』
「散々助けてくれたじゃん」
『…頼ってほしかった』
「五条は何も悪くない。私は五条の手を借りたくなかった。1人で何でもできるようにならないとダメだと思ってた。そしたら、取り返しのつかないことになった」
五条はもう分かっていたんだろう。
私の意思が変わらないことを。
『一生、隠れてるつもり?』
「今のところは」
『探したら、怒るよな』
「うん」
『だよな』
『飴、せっかく買ったのに』
「ありがと」
『いちごミルクのストック、どうしたらいいんだよ』
「それは飲めるでしょ。好きなんだから」
『…本気でそう言ってんなら、俺のこと知らなすぎ』
この時間が続いてほしかった。
でも、それが叶わないことを伝える音が聞こえてきた。
涙がこぼれた。
震える声を必死に取り繕って、一番言いたかったことを伝える。
「悟」
やっと言える。
ここまで本当に長かった。
よく我慢したと思う。
「好きだよ」
『ちな…!』
「私に青春を…こんな素敵な気持ちを教えてくれて、ありがとう」
受話器を離した。
単振動をしながら、ガツガツと壁に当たる受話器。
そして、私の体は崩れた。