第15章 終わりと始まり
誰よりも早く起きて、愛華の携帯を持って外に出た。
事前に許可は取っている。
『あの男の子に電話?そういうことなら許す!あんた、今大変なことになってるらしいし?』
心菜から私の様子は聞いていたらしい。
大変なことについて詳しく聞くと、『千夏はどこか遠くに行かないとダメだと思う。そうしないと酷い目に合うかもしれない』と、心菜が言っていたらしい。
心菜には、呪術師とかいう内容の話は何も話していないけれど、流石の観察眼で私の命が狙われていることを、察していたのかもしれない。
腹の傷の件もあったし、可能性は大いにある。
五条の番号は覚えている。
普段は連絡帳から連絡していたけれど、いつどこからでもかけれるように、覚えておいた。
まさか、こんな形で役に立つとは思ってなかったけど。
後は通話ボタンを押すだけ。
少しためらいを覚えた。
まず、何から話そう。
怒られても仕方ないことをしたから、最初は五条の怒りを真摯に受け止めよう。
そのあとは?
まっすぐな姿勢で謝ろう。
そのあとは…。
まだ、電話をかけてもいないのに、涙が出てきた。
何を話そうか考えるたびに、五条の顔が浮かんできて。
みんなの笑い声が頭に響いて。
どうしようもなく、みんなに会いたくなる。
自分で逃げる道を選んだけれど、みんなの力を借りて、死と隣り合わせで戦い続ける道を選びなおしたくなる。
ぐずぐずと荒ぶる息と、熱くなる体。
五条との最後の会話は、笑って終えたい。
この衝動が消えるまで、電話はかけられない。
そんな風に時間を無駄に過ごし、いつの間にか朝日が昇っていて。
「電話、終わった?」
気づくと、愛華が仕事に行く時間になっていた。
「そっか。かけられなかったんだ」
愛華の体からはいい匂いがした。
目の前にいる人と数歳しか離れていないなんて、やはり私は子供すぎると思う。
それを愛華に伝えると、誉め言葉と思える言葉をもらった。
「最初に会った時、千夏がどんな生活を送ってるか知らないけど、大人になることを強いられてたのかなって感じた。周りの子達もね」
だから、ここにいるときは思いっきり甘えていいと言ってくれた。
それが、愛華が出かける前の最後の言葉だった。