第15章 終わりと始まり
昨日から携帯が鳴りっぱなし。
充電する気はないので、あと数%のバッテリーを使い切れば、このうるさい音もやむ。
マナーモードにすればいい話なのだが、する気はない。
みんなとのつながりを、最後まで味わっていたかった。
「やっほー」
「久しぶり、愛華」
愛華が暮らしていたのは、超がいくつもつくくらいの田舎。
テレビで紹介されるレベルの山奥に住んでいた。
交通の便が悪く、昨日心菜と別れてからすぐに向かったのだが、ついたのは翌日の深夜。
チケットを取るのに手間取ったこともあるが、この遠さはいくら何でもおかしい。
「どうしたらこんなとこに住もうと思うの?」
「実家がここなの。親の介護があって、戻ってきた感じ」
なんとも現実感のない愛華の家に招かれ、今日は何も話さずに寝た。
愛華がお母さんの介護をしてる姿を見ながら、ひとり寝るのは気が引けたが、手伝うと言ったら殺すと言われてしまい、大人しく寝ることを選んだ。
八乙女という苗字は育ての親のものではない。
しーさんのものだった。
私の希望でこれまでずっと、しーさんの名字で生きてきた。
愛華の叔母がしーさんならば、先ほどのお母さん、または愛華のお父さんが、しーさんと血がつながっていることになる。
心菜が言っていたことが正しいのならば、しーさんはどこかで生きていることになる。
(私はしーさんに会っていいのかな)
しーさんにはもちろん会いたい。
もう一度愛してると言ってほしい。
可能ならば、千春達にも会ってほしい。
「千夏…。早く寝なさい!美容の大敵をもう一回復唱したいの?」
「うッ…」
襖が開き、眩しくてたまらなかったので、布団にもぐる。
決して、愛華が怖かったわけじゃない。
仕方ない。
狸寝入りはばれてしまったし、大人しく寝ることにしよう。
いつの間にか、携帯の着信音は止んでいた。