第14章 ラストオーダー
「千夏だよね?」
女の人は笑顔でこちらに歩み寄った。
この笑顔。
見たことがある。
「ここ、な?」
「そうそう!2年前に海で……って、大丈夫!?」
心菜は私の体に付いている血を見て、焦っていた。
大丈夫だと伝えても、カバンの中をゴソゴソといじっては、ハンカチ等を私のお腹に当て押さえた。
「千夏もこの事故に巻き込まれたの?」
「…」
「ここ、凄い事態になってるじゃん。地震の影響だとか、そこら辺で聞いたけど」
「…」
「揺れはあんまり感じなかったけどね。怪我してる人がいなくて良かったーって思ってたら、千夏がここで蹲ってんだもん。血だらけで」
虚無的な目で心菜を見つめる。
声は届くけど、意味は全く理解できなかった。
右耳から左耳に流れるだけ。
「…して」
「ごめん、痛かった?」
「殺して」
近くに落ちていたガラス片を心菜に渡した。
手が切れてしまったけれど、痛みは感じなかった。
「私のこと、殺して」
心菜の目が一瞬にして変わった。
腹部に当てられていたハンカチで私の差し出したガラス片を包み、投げ捨てた。
そして、私の手に水をかけて血を流してくれた。
「私、観察眼凄いんだよね」
「…」
「すごい出血なのに血が止まってて、しかも傷口の所の服が破れてる。これ、事故の影響じゃないよね」
「…」
「…何も言わないなら勝手に連れてくけど、いいね」
心菜は私の手を握って動き出した。
座り込んでいたから、引きずられるかと思ったけれど、私が立ち上がるのを待ってくれた。
それでも、足に力が入らない。