第14章 ラストオーダー
『ち、ちちなぁぁつ…』
「大丈夫。傷はすぐに塞いだよ」
乾いた血が傷周辺についているが、流動的なものはもうない。
傷跡が残るかどうかを考える余裕が出来ていた。
「ていうか、千春。これ、どういうこと?流石に今回は聞かせてもらうよ」
私が指さしたのは飴缶。
今まで、飴の取り出し口の反対についている口を開けることが、千春を呼び出す合図だった。
そう思っていた。
けれど、今まで何回も千春が勝手に出てくることがあったし、今回飴缶を開けて影響を受けたのは…。
『分かってる。もう隠せないよな』
「…聞かせてよ」
『後でな。まずは…』
小さな千春が私のおでこに触れた。
『逃げるぞ』
「何で」
『…少し歩けるか?』
「うん」
お腹を押えながら、少しずつ前に進む。
ここの道は行き止まりだから、誰も通らなかっただけ。
角を曲がれば人が普通に歩いているわけで。
(…!?)
少し歩けば駅前通りだから、普通に人がいると思ったけれど。
「な、にこれ」
あったのは悲惨な光景だった。
地面にヒビが入ってて、窓ガラスは割れてて。
周りの人は右往左往。
「…私のせい?」
『そうだね』
千春は私に真実を話すことを誓った。
この優しさのない言葉は、それを暗に示していた。
『事が周りに伝わる前に、逃げるぞ』
私は何も考えられなかった。
傑が人を殺したことを認めた時点から、既に心は疲弊していて。
傑が私のことを殺そうとした時点で、無気力感に包まれて。
この状況を前にして、死んでしまいたくなった。
膝が折れ、その場に四つん這いになる。