第14章 ラストオーダー
「お前、ほんとうに千夏か?」
「そうだよ?」
腰に提げている飴缶を地面に落とした。
口が外れ、中から百均で買った飴が飛び出た。
そして、力が湧き出た。
「…!」
傑は目を丸くして、1歩下がった。
「そういえば、傑がこれ見るの初めてだね」
飴を踏んで歩み寄る。
「千春。久しぶりだね」
『久しぶりだな、千夏』
私の周りには美しい姿の千春が。
呪力で周りの石が舞い、塀が割れた。
「傑、降伏して」
「…参ったな」
傑が両手を挙げ、首を振った。
それを見て、千春はスっと小さくなって私の肩に乗った。
しかし、私の信じていた傑はもうどこにもいなかった。
『…ぎゃぁいああうあああああ!』
私の腹部から血が湧き出て、足に力が入らなくなった。
千春は暴走し、傑に手をかけた。
「ち、はる。やめて」
声が届かない。
「やめ、て…!」
千春はハッとして私の中に戻ってきてくれた。
既に血は止まりかけている。
けれど、しばらく動けそうにない。
「傑だって、言ってること、さっきと違うよ」
「…千夏を甘く見てた。千春が欲しいところだが、今は大人しく引くことにするよ。……じゃあね」
どこが”大人しく引く”だ。
人が血をまき散らしているのに。
仮にも2年強もの時間を共に過ごした友達が、苦しそうに傷口を抑えているのに。
どこを見てそんなことを言ったのだろう。
私が蹲っている間に傑はどこかに行ってしまった。
千春は相変わらず興奮していたけれど、私が宥めると次第に大人しくなった。