第14章 ラストオーダー
もう、なにも言う気になれなかった。
傑が本音で語っていることは伝わっていたし、それが説得によって変えられるとは思えなかったから。
もう、考えることに、疲れてしまった。
「…本気なんだね」
「もちろん」
「説得しても無駄だって分かってるから、そんな事しない」
「へぇ。悟と違って物分りがいいな。千夏が1番突っかかってくると思ってたのに」
頭が痛い。
頭の中で除夜の鐘がつかれているようだ。
一歩前に出て傑に抱きついた。
「傑…」
この体には今まで何回も触れてきた。
けれど、全く、毛ほども、ドキドキしない。
これは傑が私の大切な友達だからと結論づけたが、少し違うのかもしれないと思い始めた。
「傑は私達が邪魔だった?」
「いいや」
「私達との時間、楽しかった?」
「それなりには」
それなりに、か。
少し傷ついた。
「傑がそうやって生きるなら、私も私なりに生きていいよね」
「ああ」
傑から1歩離れて、髪を解いた。
「髪の毛、最後に結んであげるよ」
私が手を招くと、以前のように腰を下げてくれた。
優しく傑の髪の毛をすくい、指を通した。
「切らないの?」
「少し気に入ってるからね」
きっと傑にとって、これが最後のお団子になると思う。
誰かが結んでくれたら話は別だけれど。
少なくとも、私が傑の髪を結ぶのはこれが最後だ。
「私ね、皆との時間が大好きなんだ」
「知ってる」
「皆は私にとって初めての友達だし、皆との時間は何よりも大切だった」
髪をまとめてクルクルと回す。
そこに自分が使っていたゴムを巻き付ける。
「できた」
傑はお団子に手を触れて、ありがとうと言った。
少し心がくすぐったかった。