第13章 息継ぎの泣き声
わずか1コール。
「硝子、どういうこと?」
スーツケースを端に寄せて、食い気味に聞いた。
『そのまんま』
「だから、それが意味わかんねーっつーの」
『私だってほとんど知らないよ。先生からちょこっと聞いただけ』
左手で額を押さえた。
眉間が痛い。
「ちょっと、先生に電話かけてみる」
『先生なら今ここにいるよ。代わってあげる』
せんせー、と呼ぶ硝子の声を薄らと聞いて、息を整える。
わけも分からず、息苦しかった。
『千夏、向こうに着いたのか?』
「うん。今、駅の…ホーム。メールの詳細、教えて欲しい」
詳細なんて聞く必要はなかった。
既にメールに書かれていて、何度も目を通したから。
『傑が集落の人を皆殺しにして、行方をくらませた』
「…5日前に、ってことだよね」
『そう。あとはメールで伝えた通りだ』
「意味分かんない」
『…俺もだ』
「意味分かんないって!!!」
傑がそんなことをするはずない。
なんかの間違いだ。
傑の力は平和を築くためにあって、人を殺すためにあるわけじゃない。
傑がそれを、間違えるわけない。
「ふざけたこと言うな!」
『ちな…』
「お前、今まで傑の何を見てきたんだよ!」
周りの人に変な目で見られて、涙が出た。
注目されるのが恥ずかしくて、涙が出た。
「傑はそんな人じゃない!!」
『これは事実だ』
「嘘だ」
『俺だって信じられなかった』
どうして過去形で語るのだろう。
嘘でもいいから、今でも信じられないと言うべきだ。