第13章 息継ぎの泣き声
『いいか。お前は予定通り任務を遂行しろ』
「は?何言ってんの」
『命令だ』
私にとって傑がどんな存在か知っていて、私達が仲良くしている様子を間近で見てきて、電話越しに涙声を聞いて、どうしてそんなことが言えるのだろう。
「無理。傑を探して、冤罪だってこと証言してもらう」
『捜索人員は足りてる。それに、そんなことをしても無駄だ』
「そんなの傑に聞かないと分からない」
『残穢があったと、メールに書いただろ』
残穢なんて知ったことか。
こっちには物的証拠を上回るほどの信頼があるのだから。
「私は…」
『任務のことだけ考えろ。ここで勝手なことをしたら、お前は間違いなく…』
先生は最後まで言わなかった。
私は押し黙るしか無かった。
平和な毎日を送っている裏で、未だに私の殺害計画が練られているとか、いないとか。
だから、些細なことでも問題を起こそうものなら、もう一度呼び出されて交渉を持ち出されるだろう。
『あと少しだけ我慢しろ』
「…」
私の任務が極端に減ったのは、五条と傑が特級呪術師になったことだけが理由ではなかった。
私に振り当てられるはずだった任務を、五条が肩代わりしていたから。
それは五条の権力が、凄まじいものであることを示していた。
五条が呪術界を、世界を破壊できる程の力を身につけたために、彼の主張を上が無条件に飲み込まなくてはならなくなったのだ。
何故なら、今いる術師では五条を殺せないから。
彼は間違いなく、最強になったのだ。
「先生…」
『何だ』
鼻が詰まって息ができない。
鼻の上部で息が逃げたがっているのを感じる。
「すぐに任務終わらせるから…。そしたら、帰ってもいい?お土産とか、何も買わずに……帰っても、いい?」
私が泣いているのは、駅のホームで目立って恥ずかしいから。
決して傑のことで泣いているわけではない。
もし、この涙が今回の事件のために流れているのだとしたら、それは傑が犯人であることを認めているようなものではないか。
『…ああ。すぐに帰ってこい』
「命令?」
『命令だ』
だから、この涙は羞恥心ゆえ。
ここを離れれば、私の涙は止まるはずだ。
止まるはずなんだ。