第13章 息継ぎの泣き声
灰原が死んでから、驚くほど早く夏は過ぎていった。
誰も遊ぼうなどと提案することはなく、昨年の災害の影響もあり、例年より忙しい夏となった。
「あ、五条!」
「わり。もう行かないと」
「…そう。頑張って」
廊下で五条を見かけても、話す時間はない。
彼の強さは平和を保つために必要不可欠なものとなった。
「おはよう」
そして、傑も。
前を歩く傑の肩を叩いた。
傑も毎日忙しそうに動いていて、大変そうだなと思う。
私が暇なのは今に始まったことではなく、最近はずっと暇だった。
傑や五条が特級呪術師になってから、私の出番は少なくなった。
私はいつ爆発するか分からない爆弾を抱えているから、使うならより安全な方をという考えの結果、必然的に私は後回しにされる。
「寝起き?」
「まぁ」
「髪結いてあげる。ちょっとしゃがんで」
傑の腕についていたゴムを奪って、手早く髪をまとめた。
「まだ夏バテ酷いの?」
「別に」
「クマすごいよ。寝れてる?」
「それなりには」
お団子にするにはちょうどいい長さで、とてもやりやすかった。
「ひひ。私とおそろだよ」
自分の頭を指さして笑ったが、傑はクスリともしないで、嬉しくないと言った。
あまりに真顔で言うものだから、傷つくより前に呆気に取られた。
けれど、すぐに頬が柔らかくなって、傑は小さく笑った。
「でも、ありがとう。この長さだと、1つにまとめるのが意外に大変だから」
「…不器用?」
「…」
「痛い!」
傑は私の頬を引っ張ると満足したのか、私と別れる時にはご機嫌そうに笑っていた。
(今日は先生のところに行って、適当に任務に行って…)
指を曲げながら、今日の予定を復唱した。
そうしているうちに、先生のいる部屋の前に着いたため、曲げていた指をそのままにしてドアをノックした。
何もかも、いつも通りだった。
いつも通りだったのに。
どうして、こんなことになったんだろう。
教えてよ、傑。