第13章 息継ぎの泣き声
体が熱くてしかたない。
奥の奥から、熱が湧き出てきて、何かが肌を破って出てきそう。
「ウザイ、ムカつく、嫌い、大っ嫌い…」
ありきたりな言葉だけれど、その思いの強さは他の誰にも負けない。
頭の中に千春の声が響く。
落ち着け、と。
「やぁだぁ……なんで、灰原が…しな、ないと…」
『千夏、やめて。それ以上泣くな』
「む…りぃぃ……あぁぁあぁぁ…」
目の前に千春が見える。
かの日のように、私の頭を撫でてくれている。
何で千春がここにいるんだろう。
千春は何があっても表に姿を表さないはずなのに。
そう言っていたのに。
『そうだ。あれ歌おうよ。あんたがたどこさ♪』
「…うう」
『ひごさ♪ほら、千夏も』
「…ひご、どこさ」
『くまもとさ♪』
「…くまも、と、どこさ」
『せんばさ♪』
灰原達の任務は五条が引き受けたと、傑が言っていた。
それを聞いて、七海ちゃんは私を怒らせる言葉を言った。
けれど、七海ちゃんがそう言いたくなる気持ちも十分理解したつもり。
私の敵は驚くほど巨大で、倒せっこないことは分かっている。
小さい頃から変わっていない。
私の敵は世界だった。
『それをこのはでちょいとかーくーせ♪』
木の葉で、かくす。
ちょいと、隠せ…。
「ねぇ…千春」
『何?』
「千春達の体はどこに行ったの?」
自分の記憶に自信はないが『死体がどこにもない』と、救急隊員が叫んでいる光景を覚えている。
「この体がそれなの?」
実態がそこにあるけれど、触れているはずなのに触れてないような感覚。
千春に触れるとそんな風に感じる。
『これが体に見える?』
「見えない。これは人間の肌に見えない」
千春は笑った。
正確には笑ったように見えただけ。
千春には表情を表す器官がない。
『前も言ったけど、千夏は私が気を失ったと同時に、気を失った。私達の体は普通に焼かれた』
「…じゃあ、この記憶は?」
『さぁ。勝手に妄想したんだろ』
その言葉を最後に、千春は消えた。
頬に手を伸ばすと、涙は流れていなかった。
千春は私を慰めるために、自分のルールを破って出てきてくれたみたい。
千春の答えに納得はいかなかったけれど、納得した。
納得するしかなかった。